もし僕がゴルゴ13の顧問税理士だったら。
言わずと知れた超人気シリーズの主人公ゴルゴ13。
今回はゴルゴ13を題材に思考実験と称して、「個人事業主」と「外注費」、「給与」の問題を確認したいと思います。
ゴルゴ13は世界をまたにかけるスナイパーですが、適用される税法は日本国内のルールと仮定します。そうでないと、皆さんの参考になりませんので。(僕が外国の税法をあまり知らないというのもありますが)
それでは、まず初めに彼のことを簡単に紹介しましょう。
■ゴルゴ13とはこんな男
特定の政治・信条をもたず、依頼された仕事は間違いなく成し遂げる超A級スナイパー。その腕前から各国情報機関も彼を手中に収めようと画策するもことごとく失敗しています。
英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、アラビア語、日本語など主要な言語をネイティブと同じように話します。
格闘技もお手のもの。特にロシアの格闘技サンボ(関節技主体の最も強い格闘技と言われている)の達人。
現内閣の閣僚の一人も彼の大ファンだというのは有名な話。
彼がもっとも忌み嫌うのは依頼者のウソ。もし依頼者が嘘を言ったり、裏切ったりしたら・・・。
黙って背後に立った者は、瞬殺でKO。
知っている人は知っているので、ゴルゴ13の紹介はこれくらいで。。。
■銃職人のデイブ・マッカートニーを題材にすると
ゴルゴ13は、その腕前から難易度の高い狙撃の依頼が後を絶ちません。
もし簡単な狙撃なら、何も高額な報酬を支払ってまで彼に依頼する必要は無いからです。
例えば、こんな話があります。
「AT PIN-HOLE!」
ハイジャック犯を狙撃するよう依頼されたゴルゴ13は、「針の穴」を通すような狙撃に挑みます。この狙撃を成功させるには通常の銃と弾丸では太刀打ちできないと判断したゴルゴ13は、ある銃職人のもとを訪れます。
このときに登場するのが、ガンスミス(銃職人:銃の改造、製作を生業とする)のデイブ・マッカートニーです。
劇中において彼は、己の仕事にプライドを持つプロであり、全米で5本の指に入ると言われるガンスミスです。そしてゴルゴが依頼を遂行する上でどうしても必要となる特殊な銃や弾丸を製作するのがデイブ・マッカートニーです。
ゴルゴ13の依頼は無茶ぶりが多くハードルが高いのですが、一流のプロに頼まれることが彼の自尊心をくすぐり職人魂に火をつけるので、ついつい請け負ってしまいます。
報酬は当然高いのですが、彼にとって大事なのはそこでは無いようです。
■税務の視点で考えるとキーになるのは、「外注費」なのか「給与」なのか
ゴルゴ13はフリーランス。どの組織にも属さない、雇用関係を持たない個人事業主です。
その彼が、銃職人であるデイブ・マッカートニーに銃の製作、改良を依頼する場合に問題となるのは、「外注費」で処理するのか「給与」として処理するのかです。
・「外注費」と「給与」の違いとは
形式的な両者の違いを端的に言うと「外注費」は、「請負契約」または「業務委託契約」に基づくものであり、「給与」は、「雇用契約」または「労働契約」に基づくものであることです。そして、請負関係であれば外注費で経費処理することになりますし、雇用関係にあれば給与手当を支給することになります。
しかし、実際には形式的な契約関係よりも、実態がどうなっているのかが重視されます。具体的には次のような判断基準があります。
1.仕事の方法やその進捗管理について、具体的な指示があるか否か。
2.その仕事の依頼について、断れるか否か。
3.仕事場所や時間を指定されるか否か。
4.本人の代わりに他者の労務提供が認められているか否か。
5.報酬が時間制なのか出来高払いか。
6.残業代が出るか否か。
7.仕事に必要となる工作機械や器具、備品の所有はだれか。
8.他社とも契約しているか否か。
では、実際に「AT PIN-HOLE!」から、その実態を確認してみましょう。
グレアムという男から銃職人を紹介されたゴルゴ13は、酒場の地下にある工房を訪れます。ここにデイブ・マッカートニーの工房があります。
ゴルゴの難度の高い注文にデイブは、“ロケット弾だって1キロ先のフットボールに命中させるほどの精度は持ち合わせていない”と腰が引けています。
ゴルゴは、この難題をクリアできると判断したからあんたを選んだのだと言い、
“はっきりしろ!時間が無いのだ!”とデイブに迫ります。
この段階でハイジャック犯は機内でイライラの頂点に達しており、CIAはあの手この手でキューバへの飛行を命じるハイジャック犯に引き伸ばし工作をしています。
ゴルゴの依頼に断れる雰囲気はありません。ついにデイブは、“ヘンメリー・ワルサーを土台にして作るより・・・・なさそうだな” と受諾する気を固めます。
更に、事情を知らないデイブは、“3日も待ってもらえれば出来るだろう・・・” 。
これに対しゴルゴはシガレロ(タバコ型の葉巻)を燻らせながら “3時間!” 、 “3時間以内に作るんだ!”と畳みかけます。
デイブ―― “さ、3時間!?”
ゴルゴ――“銃に1万ドル、時間に1万ドル払う!”
これで実弾と銃の製作が決まりました。
以上の会話を踏まえて、上の判断基準でフィルターをかけてみましょう。
まず、1についてですが、具体的な作業の管理はなさそうです。次に2ですが、仕事を断ることは事実上無理なようです(笑)。
3については、時間を3時間以内と限定されています。4について、他者が代わりに出来るものではないのは確実です。5について、これは時間制ではなく出来高払いですね。はっきりとゴルゴは金額を伝えてあります。
6の残業代に関しては、3時間の工程なので考える必要がありません。7の工作機械などの所有はデイブ側ですね。
8については、デイブ側は他者の仕事もしているのは明らかです。
以上のように、ゴルゴ13とデイブとの銃の製作を巡る事実関係を整理すると、どうやら請負関係にあると判断するのが妥当といえます(当たり前ですが、笑)。
従って、ゴルゴの発注に伴う外注費に係る消費税は、控除されることになる訳です。【消費税納付額=売り上げに伴う消費税-支払いに伴う消費税】
また、デイブは社員ではないので、所得税の源泉徴収をする必要は無いと言えます。
■つぶやき
今回は気分を代えて、ゴルゴ13のエピソードをもとに、税務の問題を確認してみました。
個人事業主の方(法人であっても)が消費税を低くしたい、従業員の社会保険料の雇用主負担を避けたい、源泉所得税の管理が面倒などの理由で、実際には従業員に該当するのに外注費で雇っている場合もあり得ます。
給与と外注費を分ける基準は何処にあるのかは様々ですが、税務調査では契約の形式ではなく、上の基準などを実態に照らして総合的に判断しています。
現在、在宅でのリモートワークをしている方も多いと思いますが、今後こうした外注なのか、社員なのかという線引きの判断は議論を呼びそうです。