どうなる!平成31年度税制改正、海外不動産投資による「節税策」に暗雲か?

富裕層の方たちにとっては納税額を如何にコントロールするか、税額を少なくするかは大きな関心事と言えます。

 

今回は、富裕層の方たちの間で関心が深い海外不動産投資を用いた節税について書いてみたいと思います。

 

 

所得の源泉は問わずに納税義務が生じる

 

 

国税庁では、我が国に居住する方(居住者)が得た所得について、その源泉が国内か国外であるかを問わず、所得税等を納める義務があるとしています。

 

具体的には海外で得た所得について以下の3つを挙げ、申告するようにアナウンスしております。

なお、以下のものは、外国の税務当局に申告した所得も申告が必要となります。

 

1 国外で支払われる預金等の利子

2 国外にある不動産の貸付・譲渡による収益

3 国外の法人等に対する出資に係る収益

 

◾居住者とは、日本国内に住所を有している方又は現在まで引き続いて1年以上居所を有している方をいいます。

 

 

海外不動産投資による「節税策のスキーム」のポイントは?

 

 

会計検査院の「平成27年度決算検査報告」の中にあった、「国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について」というレポートが発端となり、海外不動産による「節税策」が注目を浴びることになりました。

 

ポイントを列挙すると次の通りです。

 

① 国外に所在する建物に対しても、国内に所在する建物と同一の税制が適用されることになっている。

 

②不動産所得は、事業所得、給与所得などと損益通算が可能となる。

従って、不動産所得で多額の減価償却費を計上し、その償却額が不動産収入を上回ることで生じる損失額を他の所得と通算し、所得税の圧縮効果が実現可能となる。

 

③国土交通省によると、住宅を建築してから滅失するまでの平均年数は、日本は約32 年、アメリカは約66 年、イギリスは約80 年となっており実際の耐用年数にかなりの開きがある。

これにより中古物件を取得してもアメリカ、イギリスなどの物件は売却の際の値下りリスクが少なく、短期間で多額の減価償却費が計上可能な一方、出口でのキャピタルロスも限定的である。

 

④中古物件の耐用年数は、「簡便法」により算定できることとされており、法定耐用年数を経過した物件については次のように計算する。

 

 

 

■法定耐用年数の全部を経過した中古資産 法定耐用年数の 100 分の 20

 

住宅用の建物の場合の構造別の耐用年数は、木造等、れんが造 等及び鉄骨鉄筋コンクリート造等の区分に従い、それぞれ法定耐用年数が22 年、38 年、47 年となることから、各構造別に100 分の20 を乗じて得た値の1 年未満の端数を切り捨てた4 年、 7 年及び 9 年が法定耐用年数を経過した中古物件の耐用年数となる。

 

⑤会計検査院の調べによると平成23年から平成25の間に、国外に所在する中古等建物を所有し不動産所得に損失が生じている者のうち、減価償却費が賃貸料収入を上回っている(つまり赤字)者は、149人で減価償却費の平均額は1.378万円、不動産所得の平均損失額 は1.600万円であった。

 

上記の概要から見て取れるのは、海外物件の税法上の耐用年数が実際の物件稼働年数より

かなり短くなっていることを利用し、多額の減価償却費を計上、場合によっては不動産所得

をマイナスにすることで他の所得を減少させ、結果として所得税全体の税額を圧縮すると

いうスキームです。

 

 

会計検査院が海外不動産投資に着目した理由とは

 

特に会計検査院が着目したのは、上記のうち⑤の事実ではないでしょうか。

国内であっても煩雑なことが多い不動産投資ですが、海外の物件に投資するとなると余計

に手がかかります。

 

利益を得ることを目的するのが投資の目的であるのですが、減価償却費のほうが不動産

収入よりも多いというのは経済合理性に欠ける行動ではあります。

 

 

では、投資家は海外不動産にどう向き合えばいいのか

 

 

減価償却費は不動産の取得額をその耐用年数で割ったものですが、

【毎年の減価償却費>毎年の不動産収入】となる、つまり赤字では、耐用年数期間で限れば投資を行った意味がないといえばないです。

 

ただ、その人の全体所得を考えると、海外不動産投資による赤字と他の所得を総合的に通算

すると、納税によるキャッシュアウトを減らす効果があります。

 

 

 

また、投資は売却までが投資ですので、物件の簿価がゼロになっても賃料がそれなりに入っ

てくる物件であるならば、投資期間全体で見たキャッシュフローはプラスとなり、投資とし

て成功と言えます。

 

【物件の取得額<投資期間のキャッシュフローの合計額】であればいい訳です。

 

また、出口での売却額も取得額より上であれば、利益は出ますし、保有期間が5年を超える

場合は、税率が20%(住民税と併せて。実際にはこれに加えて復興特別所得税が課されま

す)の分離課税ですので税負担は富裕層にとっては軽くなります。

 

 

【譲渡所得が4,000万円の場合の税額】

 

例 所得税
4,000万円×15%=600万円
復興特別所得税
600万円×2.1%=12万6000円
住民税
4,000万円×5%=200万円

合計の納税額      812.6万円

 

 

まとめ

 

 

毎年の不動産投資の赤字と節税効果とのバランスも大事ですが、しっかり利益を出せる海

外物件を購入し、税金を払ってもなおキャッシュの残りが十分見込めるというのがベスト

であるのは言うまでもありません。

 

幾ら税金が減らせるとしても、その減少額よりも投資による赤字額のほうが多額では、この

スキームを活用した意味がないからです。

 

来年の税制改正を関して、財務省が要望を各省から受け付けておりますが、海外不動産投資

に関する税制は今後どうなるのでしょうか。

 

この税制のキモは、海外の中古物件の耐用年数とそれに基づく減価償却費のルールが国内

物件と同じであることです。

 

海外の中古物件について耐用年数の見直しがされるか否か、引き続き注視していく必要が

あるようです。

 

(この記事の記載に当たっては、法令を調べてたうえで十分な注意を払っております。
しかしながら、不動産投資は金額も大きく、従って税額も多額になりがちです。
実際の意思決定、税務申告に当たっては税理士、その他の専門家にお問い合わせ頂きますよう、お願い致します。)

 

 

■今日のつぶやき

 

家のリフォームも、あと少しで完成です。

 

それにしても、建築系の職人さんはかなりの人手不足ですね。

 

国土強靭化計画、オリンピック、震災の復興工事、インバウンド対応のホテル建設と、建設
投資が凄いことになっています。

 

この反動がいつ来るのか・・・・・。